オートマトン -Online- 推敲中
 T大学病院。

 改築を重ね続けている巨大総合病院の中央棟の1階は、主に病院関連の事務課や経理課、医学生たちを管理する教学課が廊下の左右に並んでいる。

 この廊下は早朝から日が沈むまで、白衣の教授の間を縫うように、大勢の制服を着た事務員が足早に行き来し、ひっきりなしに呼び出しのアナウンスが流れているのだが、それが夜ともなれば、人とすれ違うことさえ珍しい。

 今も、蛍光灯に照らされたこの細長い廊下は、寂しい限りだ。

 俺の腰にぶる下げた鍵束が互いにぶつかり合う音だけが異様に大きく響いている。

 廊下の1番奥の狭い守衛室の扉を開けると、人懐っこそうな丸い顔をした歳の離れた先輩と目が合った。

「なんでもなかったべ?」

「また、誤報でした。例の女子トイレで洗浄のボタンと警報のボタンを間違えて押したあれです」

「またかぁ。もうまいっちまうな」

 鍵の束を壁に戻し、椅子に腰を下ろす。

「それは?」

 先輩の手にオレンジ色のカボチャをみつけて問いかける。

「これな。落し物だ」

 先輩が乱雑なテーブルの上にのせたそれを手にとってみる。

 プラスチックのカボチャの入れ物。

 上部がはずれるようになっていて、その脇にはアーチのような持ち手がついている。

「ハロウィンとかいうやつだろ?」

「はぁ」とうなずいてテーブルに戻す。

 そういえば、病院に来る途中、ライトアップされたカボチャやコウモリが住宅の庭で怪しく笑っていた。

「よくわかんねぇな。なんにつかうんだ、こんなもの」

「おそらく、飴とかチョコとか入れるんじゃないですか?『トリック・オア・トリート』って言って、もらったお菓子を子供が」

「…………わかんねぇ」

「用は、子供がお菓子をもらえる日です」

「…子供といえばよぉ。おまえんとこも子供いるんだべ?」

「はぁ。まぁ」

「やったのけ?」
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