オートマトン -Online- 推敲中
 携帯を私服のズボンのポケットにつっこんで、ロッカーを閉める。

「先輩はクリスマス、誰かにプレゼントするんですか?」

「孫にやらなきゃ、しょうがなかんべ?まぁよ、なにか買ってやっても、気に入らなきゃやってもしょうがねぇからよ、2000円でも渡したらいいべ」

「ケーキでも作ってみたらどうですか?」

 そう言ってみてから、自分がへんなことを言ったことに気づいた。

 でももう遅い。

 先輩が変な顔をしている。

 太陽神界でのミリンにとって、「ケーキ=作るもの」で、買えばいいというところを言い間違えてしまった。

 ユイのメールのせいだ。

「おまえ、作れるのけ?すごく大変なんだろ?なんかいろいろ混ぜるんだろ?」

 先輩はテーブルの上に両手を出して表現する。

「こんな、切り株の形のケーキあるよな?俺、あれ、食べたことあるよ」

「それは『ブッシュオショコラ』。小麦粉とバターとローレル、それにメープルシュガー、卵、チョコレートにミルク。それを合成する。メープルシュガーは『コロナタの森林』の原木から、ミルクは『メーリーの草原』の羊から、それ以外の材料は、不定期に開かれるシャテラリア城の中の特産品店で買う」

 気がつけば、また、先輩が変な顔をして俺を見ていた。

「やっぱ、作れるのけ?」

 それに苦笑を返す。

 今言ったのは太陽神界での『ブッシュオショコラ』のレシピ。

 自他共に認める廃人だけあって、リアルでは使えない太陽神界の知識ばかり持っている。

「さぁ」

 まだ学生の頃、リアルでパティシエを夢見ていた時期もあったが、もうそれは終ったことだ。

 太陽神界で、その夢は叶えたのだから。

「作れるなら作ってみたらいいべよ。子供喜ぶべよぉ」

「先輩は―――」

 子供のように瞳を輝かす先輩に、問いかける。

「―――サンタっていると思いますか?」

 白髪の短い坊主頭を、手でゴシゴシ擦りながら、先輩は宙を見上げてつぶやいた。

「……わかんねぇ。でも、サンタが必要な人はいる」
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