オートマトン -Online- 推敲中
「早くって言われても……」

 話さなきゃいけないエピソードはたくさんあるのに、出だしがなかなか見つからない。

 せっつかれて、ざっくりと話したい物語ではないのだ。

「じゃあ、太陽が見えそうになったら起こすよ」

「……ん」

「祥平?」

「―――」

 寝息がかかるくらい近くの祥平の寝顔を見ながら、結衣はなんとなく想像してみる。

 これから大学を卒業して、就職して、この先数年で、よく見慣れたこの横顔は、精悍な青年のものに変わっていくのだろう。

 そしていつの日か、結衣の前で組まれた、この大きくて温かい手も、壁にぶつかって1人で立ち行かなくなる日が来るかもしれない。そのときは―――

「いまよりもっと強くなって、わたしは絶対に祥平を守るからね」

 いままで支えてくれてありがとう。

「来年はもっと動けるようになって、たくさん旅行に行こうね。楽しいこといっぱいしようね」

 これからもよろしくおねがいしますっ。

「祥平、……ありがとう」

 結衣は今言えるだけの言葉をありったけ吐き出していく。

 その途中、祥平の目元が不自然にピクリと動いた。

(ったく。眠たい振りして、もっとくっつこうと思っただけなのに。どうすればいいんだよ……)

「祥平、大好き。………あれ?」

 寒さで耳と鼻先だけでなく頬まで赤くなり始めた祥平を、結衣は不思議そうに、そして、愛しそうに見つめていた。

 日の出まで、まだまだ時間はある。

 でも長い目で見れば一瞬の事だ。
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