オートマトン -Online- 推敲中
 赤信号で止まるたびに、結衣は道路沿いの民家の壁に掛けられた鉢植えの花や整然と植えられた野菜畑のたくさんの苗に視線を留めていた。

「大丈夫か?」

「うん」

 結衣は緊張して過呼吸にならないよう、意識して少し多めに息を吐きだす。

「俺の友人が通ってた病院だし、下手なことはしないはずだから」

「うん…」

 有名な観光地の古都へ観光に向かう途中、友人と共に乗った、同じ路線のバスだ。なのに、今日はまったく違う。輸送車にでも乗っているような気分だ。

 土曜の朝、これから出勤するサラリーマンが1人、スポーツバックを背負った制服姿の女子高生が1人、リハビリに通うらしき老夫婦が1組、バスに合わせて時折体を揺らし、静かに前方を見つめている。

 朝の光が結衣の左半身に差し、仄かに温かい。

 初夏早々にクーラーを利かせた部屋で『オートマトン -Online-』に勤しんでいた結衣には、7月の太陽の温かさが新鮮だった。

 バスの窓から入ってくる温かい自然の風も、結衣には泣きたいほど心地よく感じられた。

 朝も夜もなくなりかけていた結衣の体から、黒い夜気が少しだけ抜け出ていくようだった。
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