オートマトン -Online- 推敲中
 清潔感のある縦長の待合室には、観葉植物が作為的に配置され、静かなクラシックが流れていた。

 診察室の扉の近くに風邪気味の若い女性が1人座っている。

 受付のそばにはスーツ姿の若い男性、その後ろの席には頭の禿げ上がった40代ぐらいの男性が座っていた。

 想像していたよりは、みなそれほど服装は乱れていない。

 一見した感じは落ち着いていて、つけっぱなしのテレビや新聞を見ている。

 受付の前でしり込みをしている結衣を置いて、翔太は1人進み出て「はじめてなんですけど」と切り出した。

「保険証はお持ちですか?」

 カウンター越しに清楚な女性が柔らかい表情でそう言うと、翔太は背筋を伸ばして返答した。

「はい」

 それに合わせて結衣がかばんからのろのろと保険証を取り出す。

「待っている間、こちらに記入してください」

 差し出されたバインダーを結衣は受け取り、部屋の壁沿いにならんだ机の前の椅子に座った。丁度目の前に窓があったが、期待していた海は見えなかった。

 あきらめて、まず氏名、生年月日、住所、日付を記入していく。

 待合室で1人背を向けている結衣は背中に痛いほど視線を感じていた。

 視線といっても目で見ているわけではない。

 待合室で診察を待っている3人それぞれが、耳を澄ませて新しく来た結衣の一挙一動を調べているような、そんな雰囲気が伝わってくる。
< 75 / 197 >

この作品をシェア

pagetop