オートマトン -Online- 推敲中
 翔太の隣に腰を下ろして間もなく、受付に呼ばれて診察代を払い、薬を受け取った。

「狩野さん、宿題が出ています。次回のカウンセリングのときに提出してください」

 結衣はずっしりとした分厚い用紙の束を受け取る。

 ちらりと見えた用紙には園児にも答えられそうな簡単な質問が書き連ねられていた。

 息を吐き出しながら、ごそごそと薬と宿題をカバンにしまって、漫画を読んでいる翔太の隣に軽く腰をかけた。

「終ったよ」

 翔太が結衣の言葉で漫画から顔を上げる。

「どうだった?」

 漫画を近くの本棚に戻しながら翔太は結衣の様子を伺う。

「話したよ、少しだけだど。カウンセリング来週から通うことになって、薬ももらった。睡眠薬と気持ちが落ち着く薬だって」

「結衣?」

 結衣の表情がおかしいのを訝って、翔太が呼びかけると、そのとたん結衣の硬い笑顔が崩れ、肩を震わせすすり泣きはじめた。

 カウンセリングに、心の薬。

 専門家に言われたら、自分がおかしいと決定したようなものだ。

「がんばったな」

 翔太は結衣の背中を擦る。

 静かな部屋に流れるクラシックに、すすり泣く声が微かに混ざる。

 結衣は部屋にいる誰もが自分が泣いてることに気がついていると分かっていたが、もう私は変なのだからここにいる皆と同じよ、という開き直りにも似た気持ちになって、すすり泣くのをとめる気にもならなかった。

「そうだ、海でも見に行こうか」

 無機質な部屋の中で、唯一翔太の存在だけが不自然に明るく感じられた。
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