オートマトン -Online- 推敲中
「今日はありがとうございました。楽しかったです」

「うん、はじめての船旅に同行できて私も楽しかったわ。ユイはしばらく港町見てまわるのかな?」

「私は、今日はもうログアウトします」

 そろそろリアル(現実世界)で夕飯になる。「またゲームばかりやって!」と母に言われる前にゲームからログアウトしなければならない。

「そっか。ユイ、おつかれさま」

 キャスケットはユイに手を振ると、村の中に走っていった。

 ユイは桟橋から浜辺に下りて、海を見据えた。

 初心者エリアの島でモンスターと戦っていたときも、帆船の甲板でレギンスの男に攻撃されたときも、衝撃は感じたけれど体に痛みは感じなかった。

 それなのに、いま足元までやってくる波の感触はある。

 安い初心者装備の靴ごしに、ずるずると波に流されていく砂の感触まで伝わってくる。

 痛みを感じないことだけが、唯一リアルとは違う事のように思えた。

 ユイはログアウトのボタンを押した。

 ―10秒後にログアウトします―というテロップが目の前を流れた。

 そのとたん、地平線の向こうが明るくなり、朝日が上り始めた。

 星空を押しのけるように、朝日は1秒ごとに空を白く変えていく。

 ゲーム内の時間はリアルよりも何倍も早く進む。

 ―5秒後にログアウトします―

 ユイは漁村を振り返った。

 いくつもあった灯篭の明かりは消えて、起きだしたキャラクターや一般のプレイヤーたちによって小さな市場が次々と開店し始めた。

 ユイは大陸を仰ぐように顔を上げた。

 漁村の向こう、白い砂浜の奥にはジャングルや火山が見えた。

 そういえば、この大陸にはお城もあるんだっけ。

 はやく、み―――――




 ―ログアウト―




 視界がいきなり停電したように真っ暗になった。
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