誘惑はキスから始まる
大河side
俺が大学を卒業すると同時に母親から引き継いだ会社。
結婚相談所。
昔ながらの手法で、会員登録者のプロフィールをパソコンに掲載。そして気に入った相手との一対一のお見合いをセッティングしていたが、個人情報云々で今どきそんなことで儲かるはずがない。
だから、最初から作り直しこの8年無我夢中で頑張ってきた。
仕事をしていくうちに、会員登録する半数以上が出会いの場を求めているということだ。
もちろん、結婚したいから登録しているのだろうが、かしこまった雰囲気よりも楽しく出会いたい、どうせなら美味しい食べ物やお酒も楽しみたいとよく深くなり世間は、どんどん新しいことを求め話題性も必要となってくる。
企画するこちら側に負担が多いが、やり甲斐もある仕事だ。
数年前に仕事をしやすくする為に101ビルの中に会社を構えたことで、会員登録者数も増え忙しい日々を過ごしている。スタッフの負担を軽減する為に今回新たに事務員を募集している。
そして、俺の会社で主催した熟年婚活パーティーで知り合った男性と母親が再婚することになり自宅から急遽出ることになった。
急だったが、仕事先に近いマンションを購入することができ本日引っ越し。
引っ越し業者だけじゃなく、新しく購入した家具類も朝から出入りするので、朝から失礼だとは思ったが隣の家の扉を塞ぐ可能性もあるので引っ越しの挨拶がてら声をかけることにした。
呼び鈴を鳴らすと中から女性の声が聞こえた。
確か、部屋を見に来た時に隣は男性だと聞いていたのに、女性もいたのかと手に持つ手土産を見て舌打ちをしてしまう。
訪れた理由を説明すると、玄関のドアが開いた。
目の前に立つ女性は、小柄だからか上目づかいで見つめる大きな瞳、吸いつきたくなるようなぷるっとした唇をしている。身長は160センチはないだろう。
「…ご丁寧にすみません」
そっけない態度に警戒しているのがわかる。
「こちらには男性の方がお住まいだと伺っていたので、ご挨拶にこんな物を用意してしまいました。気に入って頂けるといいのですが…」
警戒されないように柔らかな口調で接したつもりだったが、笑顔ひとつない。
「ありがとうございます…では、失礼します」
「……」
無愛想すぎるのにもほどがある。
割とタイプだっただけに、ムッときていた俺。
失礼しましたと背を向けた時
「引っ越し頑張ってくださいね」