誘惑はキスから始まる
百合子さんが呼びに来て応接室のドアを開けた瞬間、自分の目を疑った。
それは向こうも同じようで2人動けずにいると、百合子さんが飲み物を運んできてくれた時に我に返ることができた。
百合子さんから飲み物を受け取り、応接室のドアを閉めると彼女に座るように促した。
それから飲み物を彼女の前に置くと
「昨日は、みっともない姿で失礼しました」
恥ずかしそうに萎縮している。
彼女の新たな表情を見ることができてクスッと笑いが溢れる。
「いえ…こちらこそ朝の忙しい時間に伺ってしまい申し訳ありませんでした」
彼女は、首を左右に振り「いいえ」と答える。
俺は、彼女がここにいる本来の目的を思い出し
「今日は、面接にお越し頂いたということでしたね」
「はい」
と答える彼女を前にして心の中でガッツポーズをする。
そして
「溝口さん…」
「はい…」
「履歴書、拝見します」
その時点で採用決定していた。
元々、余程のことがない限り彼女じゃなくても採用するつもりだったが、家も隣、仕事も一緒に働ける…彼女とは運命しか感じない。
履歴書を開いて真っ先に見た欄に、口元が緩む。
「溝口さん…扶養者の欄ですが無しとなっていますが独身でよろしいですか?」
「はい」
もう、聞かずにはいられない。
「……つかぬ事をお聞きしますが、一緒に住んでいる男性というのは?」
「あっ…兄なんです。事情があって居候させてもらってます」
もう、心の中で何度もガッツポーズしつつ、テーブルの下でもグッと握り拳を作っている俺。
「そうなんですか…それは良かった」
「えっ?」
思わず本心が出ていたようで彼女が不思議がるから
コホンと咳払い。
そして…
「採用です」
驚く彼女の顔。
そりゃそうだ…本来なら後日連絡するのが世の常なのだろうが、1日でも早く彼女と一緒に過ごしたい。
いや…一緒に仕事したい。
「あの…採用でいいんでしょうか⁈御社を希望した理由などの質問をされていません」
簡単過ぎる採用に彼女は戸惑ったのか、おかしなことを言い出した。
かわいいなぁ…と笑みが出る。
「では、御社を希望した理由は何ですか?……なんて意地悪なことは言いませんよ。昨日で、あなたの人柄は少しわかったつもりでいます。僕達と一緒に1組でも多くのカップルの出会いを演出しましょう。では、いつからこ……」
彼女が、ちょっとまったと話を止める。