誘惑はキスから始まる
「失礼します」
「……はい…どーぞ」
ドアを開けると男は、何らかの資料を見ながら電話中だったらしく、部屋の中央にあるオシャレなガラステーブルの上に置くように指先を指す。
指図されるまま、丼ぶりとお茶をテーブルの上に置いている間に会話を終了させたようで、かけていた眼鏡を外しデスクの上にコトンと置いてこちら側にきた。
今朝の出来事が頭をよぎり緊張するも、目頭を押さえた男はソファにドサッと体を沈め背もたれに寄りかかった。
「…お疲れのようですね」
「あぁ…たいしたことないよ。それより、出前ありがとう。君も頼んだんだろう⁈」
「はい…ご馳走になります。……先ほどは、社長が来られていたのに気がつきませんで申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げて謝る。
「いや…気にしてないよ。ただ、今朝の続きを言い忘れたと思ってね」
思わず、ボッと頬が熱くなる。
それを見て男はクスッと笑うと
「僕のスケジュールを教えるのを忘れていたね…君のパソコンに予定を転送しておくから明日からスケジュールの調整と管理を頼むよ」
今朝のように時折みせた素の部分は影を潜め、物腰の柔らかい口調に、男は今、仕事モードなのだと理解し秘書に徹することにした。
「はい…確認しておきます。では、器を後でさげに来ますので失礼します」
部屋を出ようと背を向けると
「あっ、そうだ。うちは基本イベントがない限り土日を休みにしているけど、僕は、しばらくは休みなしのスケジュールが入っている。そこをなんとかして休みを取れるようにしてほしい。先方との都合もあるからどうして休みが取れないなら君は、休みを取っていいからね」
「……はい」
「ご期待に添えるよう、調整します」
「頼むよ」
「失礼します」
今度こそ、呼び止められることなく社長室を出て百合子さんと昼食をとろうとしていると、そこへ、会員らしき男性が来店してきた。
「こんにちは…真鍋さま。本日はどうされましたか?」
百合子さんが応対に入るので私は、お茶の用意をして2人のいるブースにお茶の用意し出しに行く。
「失礼します。お茶をどうぞ」
どこか偉そうに足を組んで、上からつま先まで私を確認し
「あれ⁈新しい子入ったんだね」
「はい…よろしくお願いします」
お茶をテーブルに置きながら挨拶をする私の手を突然つかむ真鍋さま。
「おれ、この子がいい…セッティングしてよ」