誘惑はキスから始まる
その相手って私?
そう思うと無意識に足が動いて男の側に行こうと歩いていた。
すると、お酒の匂いをプンプンさせた男性に腕を掴まれた。
「君‥名前教えてよ」
「…いえ、私はスタッフですので申し訳ありません」
「そんなのわかってるよ。名前ぐらいいいだろう?」
「どうされましたか?」
困っている私の元に来てくれた社長。
「この子の名前教えてよ」
「あぁ、そんなことですか」
そんなこと⁈
ムッとくる私の側で小声で言いきった…
『彼女はいずれ私と同じ性になりますが、どちらの名を名乗ればよろしいですか?』
はぁっ⁈
平然と嘘をつく男に言葉が出てこない。
出席者の男性も返す言葉がないのか、諦めてその場を離れていった。
そして…
「ちょっと、こちらへ」
男の声色が変わり、後についていく。
前にも…似たような事があった。
あの日のキスを思い出しているうちに、人気のない非常階段のドアが開く。
ガチャンとドアが閉じる音と同時にドアに背を押しつけられて、男の指が顎をグイッと上げた。
視線が絡み、怒りを含んだ瞳に目を何度も瞬きしてしまう。
「隙があり過ぎるんだよ。こんなことなら俺を好きって言うまで部屋に閉じ込めておくか?それとも待つのをやめてここで俺のものになるってのもありだな…どうする?」
「なんなの?どっちもいやよ」
「分かれよ…待つのも限界なんだよ」
切なくかすれた甘い声に、私の体の奥が反応していた。
「……んっ……っあっ……ぁ」
強引に唇に触れてくるくせに、優しく啄むキスなのはどうして?
顎にあった男の指が、肩を撫で腰を抱きしめると、しだいに荒々しいキスに変わり、開いた唇の隙間に強引に男の舌先が許可もなく侵入してくる。
男の首に腕を絡めキスに応え始める私。
そんな自分に一瞬驚くが、既に手遅れで舌を絡め男とのキスに夢中になっている。
「……はっ、んっ……ぁあ…だ…め」
息つぐすき間も与えられなくて、逃げる舌を追いかけて絡めとり、舌先から痺れる快感にクラクラして私はヒールで立ってるのもやっとで、足に力が入らなくなってくる。
キスがこんなに激しいなんて知らなかった。
キスが気持ちよくてなのか?
激しくて辛いからなのか?
わからないけど…潤む瞳から頬に涙が溢れる。
頬を伝う涙を男が指で拭う。
「こんなの俺らしくないのに…お前のことになると抑えがきかない。好きなんだ……美咲」