誘惑はキスから始まる
私達の住むマンションまでの道のりにあるお店カフェ&ダイニングバー【コンフォルト】の前を通り過ぎようとした時、お店から出てきた綺麗な女の人にぶつかった。
「ごめんなさい…大丈夫ですか?」
「こちらこそ、ごめんなさい…」
悲しげな表情をしつつ、無理して笑顔を見せる女性がなんだか痛々しく感じた。
お互い、何ともない事を確認すると彼女は急ぎ足で歩いて駅に向かって歩いていく。
彼女の残り香に、(んっ、この匂い。嗅いだことある)と思いつつ、見送るように見ていたら背後から男が走って彼女を捕まえる。
「私は、帰るからあの人達と仲良くすればいいじゃない」
「お前が来るまでの暇つぶしの女を相手にする訳ないだろう…」
聞こえてくる痴話喧嘩。
うわッ、何、この男…サイテー。
彼女が来るなら相手にしなければいいのに…
「……あなたにとって私もあの人もたいして変わらないでしょう。早く戻ってあげれば⁈」
彼女さん、かわいそう…
「お前じゃなきゃダメだってわからないのか」
男の言葉に嬉しそうに笑う彼女を、男は腕を引き寄せ抱きしめた。
突然、目の前でおきるキスシーンに目のやり場に困っていると
あれ⁈
「あの人、お前の兄貴じゃないか⁈」
社長も気づいたらしい。
私達に気づいていない兄さん。
彼女を抱きしめ、何度も触れるキスをして彼女の頭を優しく撫で愛しいそうに見つめる兄。
そして、彼女の肩を抱き寄せ路地へと消えていく。
あんな兄さん…初めて見たかも。
女に、固執する姿に驚きを隠せない。
「お前の兄貴、見かけと違って恋愛下手なんだなぁ…」
「なんで、そう見えるの⁈兄さん…恋愛をゲームとしか思ってないし、エッチだって合意の上での遊びだし、まともな恋愛してきたことないんだから…」
「だからだよ……本気の相手だから戸惑っているんじゃないのか⁈」
「何、それ?意味わかんない…女なんて簡単に堕とせる、堕とすまでが楽しいっていうサイテーな人だよ。そんな人が、1人の人に戸惑うって…あり得ない」
兄さんの味方をする社長に腹立たしくなり、声を荒げてしまう。
「サイテーか?もしかして、お前の男嫌いの原因って兄貴か⁈」
「…兄さんだけじゃないけど…この人ならって信じれる人に出会ったのに裏切られたの」
まだ、話すつもりはなかったのに男に見抜かれて、自然と口に出していた。
「……そういうことか」
全てを理解したという顔で、男は私の手を引き再び歩き出した。