誘惑はキスから始まる
しばらくして動けるようになった体を起こし、大河がいるであろうリビングに向かう。
すると、キッチンで上半身裸のまま何かを作っている大河がいる。
「手伝うよ」
「じゃ、これ頼む」
任されたのは、マグカップに出来たてのコーヒーを注ぐことだけだった。
大河は、手慣れた手つきで2種類のサンドイッチを作り終え、食べやすいようにカットしている。
「大河、料理できるんだね」
「ただ、あるもの挟んだだけだしな…こんなの料理にならないだろう⁈」
「凄いって…兄さんならトーストにバター塗って終わりだよ」
突然、口を尖らせる大河。
ん?
どうしたのと大河の顔を覗くと
「俺といる時に他の男の話なんてするな」
拗ねている男。
はい⁈
他の男って兄さんだけど…
そう思いつつ、こんなかわいい独占欲も嬉しいと感じるなんて、やっぱりこの気持ちは…好きってことだよね。
「聞いてるのか?」
今度は、大河が私の顔を覗き込む。
その顔が可愛くて思わず抱きついた。
頬に直接触れる大河の肌。
大河の体が細いくせにたくましくて、このまま抱きついていたくなる。
私、変だよ…ドキドキしている。
大河は、私の頭を優しく撫で
「美咲から抱きついてくるなんて初めてだな…少しは、俺のこと好きだって認めたか⁈」
意地悪く笑って私の頬を両手で挟むと、チュッと音立て唇に軽くキスをする。
図星を突かれ頬が染まる私を見て、一瞬だけ妖艶に微笑むと
「さて、遅いブランチにするか」
大河と私はテーブルにつき、お互いの幼かった時のことや嫌いな食べ物など、どうでもいいような会話をしながら食事をした。
でも、私は大河の新たな一面を知ることができて、嬉しいと思っていた。
食後、コーヒー注いだだけだからと、私は後片付けをさせてもらっているのに
なぜか、私の腰を抱きしめたまま大河が背後にいる。
「美咲、この後どうする?」
どうするも何も、その前に耳元で喋らないでほしい。
身をよじろうにも腰を抱きしめられ動けない。
耳が弱いのを確信してから、わざとやっているとしか思えないから我慢して無視を決め込む。
「み…さ…き」
吹きかけるように名前を呼ばれ、腰が砕けそうになるのを大河が背後から支える。
「おっと…腰にきたか⁈」
もう…この男は
「大河…邪魔しないで。それに、セクハラ」
「違うだろう⁈セクハラじゃなくて誘惑してるだけ…」