誘惑はキスから始まる
大河に連れられて地下駐車場に。
兄さんの車の横にブラックのアウディの新車が…
「いつの間に…兄さんから何も聞いてないよ」
「美咲の驚く顔見たかったし、内緒にしてもらってた。さぁ、乗って…ドライブに行こう」
今日が、初乗りだということで嬉しそうにハンドルを握る大河の隣で、私は、密室の空間で男の動作ひとつひとつにドキドキしている。
ショッピングモールの駐車場に車を停める時も、ハンドルを何度もきることなく後方を確認しながら一発で入れた。
驚いている私の唇を奪うようにキスすると、車から降りて当たり前のように私の手を握る。
そんな動作ひとつに心が動かない女がいるのだろうか?
今にも『好き』と言ってしまいそうになる口を閉ざして、代わりに握っている大河の手をぎゅっと握る。
すると、大河もぎゅっと握り返してくれる。
些細なことだけど嬉しくて頬が緩んでいた。
部屋に足りない物があるからと寄ったが、何を買いに来たか教えてくれない…
大河が見ているのは、なぜか女性物ばかりで…
「この枕カバー俺のと色違いだけど、どう思う?」
「いい色だね」
「それなら、このルームウェアは?」
「かわいいけど…」
いったい、誰のを選んでいるの?
なんだか面白くない私は、つれない返事を返していた。
「美咲、お前の物を選んでいるのに、何が気にくわない⁈」
⁇
「わたしの…なの?」
「…まったく、誰のだと思ってたんだ?俺にはお前だけだって言ってるのに、まだ、言い足りないみたいだな…」
意地悪く笑う大河。
「……嫌っていうほど聞いているから結構です」
「ふーん…」
私を見つめる目が何かまた企んでいるように見つめ、口角を上げ不敵に微笑んだように思う。
その後、どうしてもお揃いのマグカップにお茶碗、お椀、お箸を揃えたいと言い張る大河と一緒に選んでみたものの、いったいいつ使うんだろうと疑問を浮かべていた。
海岸通りをドライブして帰る途中、綺麗な夕陽に見惚れ『海辺を散歩しよう』と言いだした大河と車から降りて砂浜を歩き出すが、ミュールを履いていた私は砂が入って歩きにくいから、素足になり、両手に片方ずつ持って大河の後ろを歩いていく。
誰もいない岩場を見つけ、2人並んで腰かけると大河が私の肩を抱きしめてきた。
ちょっと肌寒く感じていたから大河の温もりに寄り添う。
「ずっと、こうしていたいな…」
つい、本音が出てしまった。