誘惑はキスから始まる
「遅い時間に引き止めて申し訳ありません。それでは、おやすみなさい」
鍵を差し込みドアを開けると私の頭を部屋の中に押し込んで、大河に微笑む兄さん。
そして、そのままドアがガチャンと冷たい音を立てると鍵を締める男。
そのまま私を玄関に置き去りにして、リビングへと入っていった。
パンプスを脱いで、恐る恐るリビングに入れば顎で座れと指図される私。
はぁ〜
とため息1つついて、ここに来た日のように床に正座して座った。
「どういうことだ?」
そうだよね…キスしていた相手が上司でお隣さんなんだものね。
「えっと、見たまんま‥です」
「はぁっ、お前が前に悩んでいた相手があいつなのか?」
頷く私。
「あいつはやめておけ。俺と同じタイプの男だ。…お前が一番嫌いなタイプじゃないのか?」
「私もそう思ってたわよ。だから近づかないようにしようって思ってたけど、大河は違ったの…
口が上手くて
自分に自信があって
立っているだけで女が寄ってきて
女がほしい言葉を知っていて
駆け引きが上手なのは兄さんと一緒かもしれない。
けどね、私だけを好きだって言って大切にしてくれるの。意地悪なとこもあるし、ちょっと愛情表現が変わっているけど…全てひっくるめて好きなの。前に傷ついた事も忘れてしまうぐらい、大河から好きだって気持ちが伝わってきて、彼なら信じられるって思ってる」
興奮しながら話しだした私だったけど…しだいに兄さんの目を見つめ冷静な口調へと変わり最後には断言していた。
「……お前がそう思うなら好きにしろ。
お前に説教するつもりはない。あいつを…俺は…1人の女も大切にできないからな」
切ない声で口元を歪める男。
「…あいつって、例の香水の彼女?」
「あぁ…お前の男のように好きだって言えない関係なんだよ」
「なに、それ?」
不倫⁈
「バカか…俺が不倫なんてするかよ」
心の声が漏れていたようだ。
「まぁ、お前に言っても仕方ないけど…
女でこんなに悩んだことなんて初めてだ」
そうでしょうね…
行きずりの女かお互い合意の上での遊びの恋愛しかしてこないからよ。
「なら、大切にしてあげなよ。待ち合わせしてるくせに他の女と時間潰しなんてしてないでさ…自分の兄ってわかって思わずサイテーって心でつふやいてたわ。あの女の人、綺麗だったし、兄さんよりかっこいい男なんて沢山いるんだからそんなことしてたら振られるわよ」