意地悪なきみの隣。
「テストでも花マル取れるといいのにな」
そしてまた、こんなことを言う。
べーっと舌を出してくる中島くんには何も言い返せない。
だって彼は頭がいいから。
順位が一桁の人だもん。
「高校では花マルなんてしないよっ!」
少しだけ抵抗してみる。
そんな小学校みたいなテストの丸つけしないもん。
「じゃー俺がいい点取ったら花マルしてやるよ。これ、約束な」
ん、と小指を立てた手を出してくる。
指切り……かなあ?
私も小指を立てて、そっと中島くんの小指に絡める。
ゆーびきーりげーんまーん、とのん気に歌いながらその手をぶんぶんと振る。
「はい、これでお前がいい点取っても花マルしてやんなかったら俺、針飲まなきゃなー」
そんな変なことを話してると家が見えてきた。
「家ここだよ。送ってくれてありがと。お礼できて良かった!」
なんだかんだで楽しかったと思う。
親子遠足以来の動物園で高校生だけどテンション上がっちゃった。
何回もバカにされたけどね。
少し、ドキッてしたり…。
それは内緒だけど。
「そっか。まー俺もいいOFF過ごせたな。また明日から朝練と放課後練習三昧」
そうだった。
今日はバスケ部の珍しいOFFだった。
ゆっくり休んだり、高橋くんと過ごしたりしなくてよかったのかな?
私でよかったのかな?
「心配すんなって。俺がいいOFFだったって言ってんだからいいOFFなんだって」
ポコっと手の甲で頭を叩かれる。
表情に出てたみたい…。
「そ、そうだね!ごめん!」
「ん。じゃーもう遅いし家入れ。また明日な?」
いつかの朝みたいに大きくてガッチリとした手で頭をくしゃっと撫でる。
言われるままに玄関のドアに手をかける。
「ありがとう。おやすみなさい!」
最後にそう言って私は家の中に。
体操服のお礼のはずなのに、私が楽しませてもらっちゃったな。
ガチャンとドアを閉めた後、
「また明日な、郁ちゃん」
なんて言ってることは気づかなかった。