意地悪なきみの隣。
「なーなー大和、なーんであの帽子あげたの?」
「……今、体育会の予行練習だし後にしない?」
紘樹は空気も読めないのか。
喋ってるところなんて見られたら一溜まりもない。
何と言っても体育会指導者はあの森本。
ガミガミうるさい森本に見つかれば終わりだ。
巻き添え食らうのなんてごめんだ。
こんなかんかん照りの中、説教は絶対されたくない。
「おらー!とっとと動けー!お前らのケツは鉄か⁉︎やり直しだ!」
…森本は一言で言うと熱血。
マンガで出てきそうなほど。
怒るとかなり怖いけど、普段は気さくな先生。
まあだからこそ、体育会は楽しいんだろうな。
「やり直しだってよ〜。大和、ケツ思いんじゃね?」
今のはお前だろ確実に。
喋りながら立ったのはお前くらいだっつーの。
俺のケツをペンペンと叩きながらさっきの位置につく。
「帽子は俺のすっげー遠回しなアピール」
「えっ⁉︎なんて?」
森本の拡声器越しの声に俺の声はかき消され、紘樹の元には届かなかった。
んなおっきい声出したら森本に目つけられるぞ?
紘樹をおいて俺は観覧席から指定された場所へと走る。
こんなの何回も繰り返し練習なんて、小学生かよ。
「わ!痛っ!」
視界にはガタイのでかい男子にぶつかられてよろけながら走る西野。
だっせえ…。
小さい体はほんの少しの衝撃でも大ダメージなんだな。
こういう鈍臭いところ、今ではいじりたくなる。
「さっさとしろよ。これでやり直しさせられたら西野のせいだからな、チビ」
後ろから軽く頭をポンと叩くとやっぱり大ダメージみたいだ。
小さい体が大きく揺れる。
「も、もう!わかってるよお」
怒った顔をしながらさっきよりも少しスピードをあげて走って行く。
鈍臭いところは変わってないな。
そんなことを思いながら俺も定位置へついた。