常磐色の意味。【短編】
ふと我に返ると、友達が私を前方から呼ぶ声がした。
「ごめーん! 今行く!」
この時代にも、私を必要としてくれてる人がいる。
だが、誰よりも深い暖かい愛で包んでくれたのはあの人だけ。
こうして寂しくなってしまうこともある。それでも、目を閉じて常磐色の髪紐にそっと触れると、一さんの温もりに包まれることができる。
一さんに会えるかなんてわからない。
そして、私が誰かのことを好きになるかもわからない。
未来なんて、誰にも予想ができないのだ。
それでも、毎日を生きないと未来は来ない。一さんに会うことができる可能性がなくなってしまう。
大きい背中に、低い声、優しい笑顔。
何一つだって忘れたくない。
あの人と過ごした思い出はもう返らない。
けれども、それらが新しい物語を繋いでくれるはずだから。
私は、いつかの再開を楽しみに、新しい毎日へと歩き出した。
【完】