恋のはじまり
「さっ、行くか。もう転ばないようにな。次も受け止めれるかはわからないからな。」
「き、気をつけます。」

わざと戯けた様子で課長は言ってその場の空気がまたいつもの様に戻った。

たわいない話をしてあっという間に駅に着いた。

課長とは方向は逆だった。

「じゃあな笹本。また明日。」
「では、また明日。」
短く挨拶をしてそれぞれのホームに降りて行く。

下って行くエスカレートに乗って自分の手を見る。それはいつもと変わらない左手だけれど、繋いだ課長の手を自分の左手に重ねて思い出すとたちまち胸の鼓動が速くなった。
(この気持ち…前とおなじ。)
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