恋のはじまり
ふと思い出して向かいの電車を見ると、出口の窓の所に課長が見えた。ドアに肩を預けて横向きに立って外を見ている。

「あっ。」
思わず声が出た。
その声は届くはずは無いけれど、課長もこちらに気がついて目が合った。一瞬驚いた顔をしたが、またいつものように窓越しに微笑んでくれた。
その時、ちょうど発車のベルが鳴った。

咄嗟に課長に向かって手を振った。

すると、課長も小さく胸の所でひらひらと手を振ってくれた。ニコッと微笑んでバイバイ、と。
電車は間も無く発車して速度を上げて夜の中灯りを照らしながら遠退いて行った。
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