恋のはじまり
「その後は、笹本は完全に眠っちゃって全然起きなくて。でも家知ってるやつ誰もいなくてどうしようもなくて、店から一番俺の家が近かったからとりあえず連れて来たんだよ。
それで、うちに来たんだけど、それでも笹本は爆睡で全く起きなくて。ベットに寝せようと連れて来たら、笹本を寝かせる時にふらついちゃって、そのままベットに2人して倒れこんじゃって…。
で、ここで俺も酔ってたしここまで笹本をおんぶしてきたりして、ちょっと限界きちゃって、そのまま一緒に寝てしまいました。
で、朝になったという事、です。」
きちんと説明しようと私に分かるように課長はゆっくりと話し、その優しさが返って私を、動揺させた。
そして、課長の話しを聞いた私の顔は青くなった。
飲み過ぎて? 上司におんぶしてもらって? そのまま朝まで爆睡?
何てありえない事だろう!!!
社会人としてこんな醜態をさらして、月曜からどんな顔をして会社に行けばいいのだろう?! 恥ずかしくて穴があったら入りたい心境だ。
課長から聞いた自分の醜態にあまりの衝撃を受けて青くなっていた私を見て、課長が慌てて話してきた。
「笹本、ごめん! 酔っていたとはいえ一緒に寝ちゃったなんて嫌だったよな。すまなかった!」
「ち、違います!課長が嫌だったわけでなくて!あまりにびっくりして…。
というか、私の方がすみません! とんでもないご迷惑をおかけしてしまったようで。 本当にすみませんでした!」
私の黙った態度を見て不快に思っていると勘違いしたらしい課長に、とんでもないと頭を下げて謝罪する。
「笹本、そんな謝らなくてもいいよ。俺も結構飲んでたし、誰だって羽目を外して飲み過ぎちゃう事はあるし。俺も本当にごめんね。」
「か、課長ー…!」
「課長が謝らないで下さい、私の方が悪いんです!すみませんでした!本当にすみませんでした!」
自分の不甲斐ないさに先ほどよりも深く頭を下げて謝罪するが、それでも足りない位だ。
「笹本、そんなに謝らないで。
じゃあ、お互い様と言う事にしよう。
笹本も酔ってたし、俺も酔ってたし、ってことでね。」
ここまできても変わりなく優しい課長。本当に良く出来た人だと思う。
こんなに迷惑をかけた私にまだ優しい言葉をかけてくれる課長に涙が出る。
「だから泣かないで。ねっ。コーヒーもあったかいの持ってくるよ。」
そう言って課長はティッシュを差し出し、まだ温かいコーヒーを淹れにキッチンに向かった。