恋のはじまり
「プッ、プー!!」

見つめ合ったまま動けないでいると、後ろからトラックが来ていてクラクションを鳴らしてきた。

「うわっ、邪魔になってたな。じゃあ、笹本、また月曜に。」
そこでハッと気づいて慌てて課長の車から降りた。

「あ、ありがとうございました!」

最後に軽く手を上げて課長は車を発進させて帰って行った。


「ふぅーー。」

玄関の鍵を開けて中に入り、ドアに背を預けてを大きく息をつく。
胸に手を当ててやっと呼吸が落ち着いてきた。課長と一緒の時は胸がドキドキ高鳴って苦しい位だった。

朝、目覚めた時の事を思い出すと背中にまだ課長の温もりがあるように感じる。
(…あったかかった)

お腹に手を当てると抱き締められていた腕の重さが蘇る。
(重かったけど、苦しくはなかった)

まだ赤い耳に触れると柔らかな感触が残っている。
(唇ってあんなに柔らかいものなんだ…)

まだ私の体には課長の感覚が残っていて、目を閉じるとリアルに思い出す。

思い出すと胸の奥がきゅうっと締め付けられる。

私も、課長も、どうしちゃったんだろう?
私たちはただの上司と部下。ただそれだけなのに。近過ぎた距離に戸惑ってしまう。


「…課長、どうして?。」

まだ、右耳が熱い。
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