いけてない私の育てかた
屋上に入る手前の3畳程のスペースに私は丸まって座っていた。

もうとっくに予鈴はなっていたので誰もいない。

初めて授業さぼっちゃった。

ぶたれた頬がヒリヒリ痛くて左手でそっと触れるとまだ熱をもっていた。

悪口を言われた事よりぶたれた事より佐藤くんにその事を見られたことがショックで私は泣いていた。

私ってまだ佐藤くんの事すきだったんだ。こんな時に気付くなんてなんてバカなんだろう。


「大丈夫?

はい、これで冷やすといいよ。」

差し出されたのは濡れたハンカチ。

頬に当てたそれは冷たくて熱をもった私の頬も心のモヤモヤも冷やしてくれる。

「気持ちいい。」


「ありがとう。庇ってくれて。」

見るとそこには恥ずかしそうにお礼を言う呉さんがいた。

「そ、そんな。

それより呉さんは授業でなくていいんですか?」

呉さんは私の隣に座って、

「庇ってくれたあんたをほって授業なんてでられないから。」

いつもビシッと決めてる彼女の姿はここにはなく照れて可愛い彼女が私の隣に座っていた。


「ごめんなさい。余計な事をして。」


「何謝んのよ。

私は私を庇ってくれて嬉しかったんだから。」

嬉しかった?余計なお世話じゃなくて?

「それに、前から思ってたんだけど、早乙女さんって私の事見てなかった?」


げっ!バレてた。

「すみません。

呉さんのメイクがあまりに素晴らしかったからつい……。」

私は話している間決して呉さんと目を合わせないようにしていた。

「ホントに!」

呉さんはそう言って嬉しそうに私の肩を掴んだ。


「は、はい。

初めて見た時は驚きましたけど、でも凄く上手で毎日呉さんのメイクを見るのが私の楽しみでした。」

やだっ私それじゃあストーカーみたいじゃない。

「で、でもさっきも言ったようにきっと呉さんはスッピンでも綺麗なんでしょうね。」

クスッ


「ありがとう。」

ハニカミながら笑う呉さんもとても素敵だった。

そこで私は前から疑問に思ってた事を思い切って聞いてみた。

「あのー、なんでそんなに綺麗な顔してるのにわざわざメイクなんてするんですか?

いやっ、悪くとらないで下さいね。

私と違って本当に綺麗な顔だからスッピンでも全然平気なのにって思って。」

私は目を合わせないようキョロキョロと辺りを見ながら話すと、

「ちゃんと人と話す時は目を合わす。」

呉さんは私の顔を両手で押さえて無理矢理自分と視線を合わせるようにした。

「いや、あのこれは。」

今度はシドロモドロしている私のメガネを外しクルクルっとあっという間に私の前髪をポンパドールにしてしまった。

「あっ!」

慌てて手で目を隠そうとする私の手を掴んで、

「やっぱり。」

「ご、ごめんなさい。」

何でこんなことをするのかさっぱりわからない。

「こんなに綺麗な目してるのに何で隠すの?」

へっ?

一体誰の目が綺麗なの?

私は辺りをキョロキョロ見回すが私達の他には誰もいそうにない。

「誰のこと言ってるんですか?」

「まさか貴女自覚してないの?」


「何を?」

話しがさっぱり見えてこない。

はぁー、大きなため息をつきながら呉さんは話しだした。

「あのさー、早乙女さん。あー、言いにくい。ほのかでいいよね。

ほのかさぁー、さっきあいつらにメデューサがどうのって言われてたじゃない?

あれってほのかの目がキツイからなの?」


「そうです。」

「ほのか!あんたタメなんだから敬語禁止ね。
それに私の事は楓って呼んで。」

ほら呼んでと言わんばかりに顎をあげる。


「かえでさん。」

「ちがーう、かえで。」


「かえで。」


「よし、

それでどこまで話したんだったけ?

あー、目がキツイだね。

ほのかはそれを気にして伊達メガネかけて前髪伸ばしてたの?」

「う、うん。」

「ふーん。

ちょっと今はメイク道具ないからほのか帰りに私の家寄って。」


へっ?今なんとおっしゃいました?

私が返事をしないでいると、

「何か用事でもある?」

用事なんて今まで本屋に寄るくらいしかなかった私に用事なんてある訳がない。

滅相もないと首をぶんぶんと横に振ると、

「じゃあ決定ね。」
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