傷ついたセイレーン 短編 (ストーンメルテッド)
傷ついたセイレーン
水の神パリアは、アムール城の直ぐ近くの海辺にいた。海水を綺麗な水にする為、定期的に来る様にしているのだ。海は、太陽の力できらきらと輝いている。この景色が、何よりも好きだ。

そのところ、“誰か”が海に流されている姿を目にした。

透き通るような海から、その者の羽がしっかりと見える。海水に濡れた髪は、一層、彼女の美しさを増していた。

「セイレーン……何故、こんな事に」

思わず、パリアは海に飛び込んだ。彼女の華奢な身体を掴み上げる。見れば、左上腕部にヴァイス帝国のタトゥーが入っているのが分かった。

このまま、自宅まで彼女を運び、彼女をベッドに寝かし付けた。

「……私は、ヴァイス帝国から何度も逃げようとしました。でも……駄目でした。変わりに、この有様です」

セイレーンはそう言って、傷ついた身体のあちこちを、パリアに見せた。パリアは、眉を下げ、訪ねた。

「それでは、何故……海に」

「海に沈めば、殺せるとお思いになったのでしょう。もう、必要はない……と」

この時、右羽に暖かい感覚が走った。おもむろに見ると、パリアが治療に当たっていた。包帯を巻いてくれている。ポロリ、涙を流した。この様な優しいお方に出会った事はなかった。パリアは、微笑んで、言った。

「怪我を直したら、獣森にある楽園へ行きなさい。あそこは、安全だ」

そう言った場所があると、動物の神アルから耳にした事が一度、ある。

セイレーンは、この時、初めて“笑顔”を浮かべた。

「……ありが……とう」

彼女の掠れた声は、そう聞こえた。それにしても良かった。流れ着いた地が、この国で……。

部屋の中、静けさに静まり返る。世界が無と化した。真っさらな白紙へと。

……エンデュか。



数日後、セイレーンは楽園へ旅立った。

それまで、彼女とは、いくつもの思い出がある。飛べなくなってしまった羽を治す為、アルに願い出たことがあった。

「訓練を積み重ねれば、時期、旅立てるさ」

アルの言葉を信じた彼は、セイレーンが無事、飛べるように、訓練を重ねた。
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