お菓子な男の子
「はい!今週限定、焼きマシュマロのチョコレートソースがけ」
「ありがとう!うわっ、おいしそう!」
「それとこれも」
「あ、リンゴのやつ?……あれ?お持ち帰り用?」


真島くんが差し出したのはお持ち帰り用に包装されたクレープ。リンゴもここで食べるのに、どうして?


「これは僕から杏奈ちゃんへのお礼。どうぞ」
「えっ?お礼ってなんの……」
「ポスターの。ほらボランティアの時さ、杏奈ちゃん受付担当だったのにこっちに代わってくれて、すごく助かったから。ありがとう」
「そんな!わざわざよかったのに」


ボランティアをやってたのはみんな一緒で、ただ役割を変えただけで特別多く作業をしたわけじゃない。むしろ、真島くんたちのほうが一生懸命だったのに……


「それにね」
「?」
「杏奈ちゃん、クレープがすっごく好きみたいだから、喜んだ顔が見れるんじゃないかなって。それだけで僕は嬉しいから」
「ま、真島くん……」


真島くんはそんなことをさらっと言ってしまう。でもやっぱり千夜先輩みたいなわざとらしさはないんだよなぁ。きっと素がほんとに優しい人なんだ。


「ありがとう。もうひとつ食べたいと思ってたから嬉しい。あ、チョコバナナだ!クレープの中で一番好きなんだ!」
「そうだと思った。杏奈ちゃんは君のお父さんにそっくりだから。君のお父さん、好きだったんでしょ?チョコバナナのクレープ」
「え……」


どうして真島くんが私のお父さんのことを知ってるの?会ったことも話したこともないでしょ?それに、私が6歳の時にお父さんは死んでしまった。私ですら、わからないことがあるのに……
真島くんは私を見てにこにこ笑っている。でも気づいた。目が、笑っていない。


「まし……」
「アンちゃ~ん!亮輔く~ん!」


向こうから、笑顔で手を振るリンゴが走ってくる。


「じゃあ僕は帰るよ。このあと、用事があったんだ。また明日、学校で」


真島くんは呆然とする私を置いて席をたった。
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