お菓子な男の子
それから10分もせずに、私たちが泊まるペンションに着いた。
建物は洋風の造りになっている。冬には使うのだろう、暖炉もあってすごくおしゃれな雰囲気。
リビングだけでもかなりの広さだ。


「すご~い!ひろ~い!」
「好きな部屋を選んでいいよ……ってリンゴちゃん!走ったら危ないから!」


千夜先輩の声をよそに、リビングから部屋に続く階段を駆け上っていくリンゴ。花梨ちゃんですらため息をついている。


2階は部屋が8つあり、私たちは好きな部屋に荷物を置いた。
私が選んだ部屋は、大きな窓からの眺めがすごくいい。ほかには、くまのぬいぐるみと、きれいな星の写真が飾ってあった。


「やはりチヨはあの端の部屋を選ぶのか」
「落ち着くんだよな」


階段を降りていると、先にリビングに降りていた千夜先輩と久喜会長の声が聞こえた。


「何度も掃除やクリーニングをしているから、もう温もりなんてないと思うが」
「お前なぁ、そういうことじゃないんだよ。なんかこう、母さんがいたんだよなっていうか……思い出が染みついてるんだよ、あの部屋には」
「チヨはポエマーか?」
「一臣。前から思ってたんだけど、お前ってちょっとズレてるよな。よく生徒会長やれてるよ」


私は階段の途中で止まった。もう少し2人の話を聞いてみたい。仲良いのは知ってるけど、普段どんな会話をするのかは、じっくり聞いたことがない。ちょっと好奇心。
でも……母さんの思い出ってなに?


「レミが気に入って使っていた部屋もあったな」
「あぁ、あの2番の部屋か。窓から見える景色が一番きれいだって言ってた」
「ぬいぐるみと写真はそのままにしてある」
「親友の思い出はどうでもで、好きな人のは大事にするんだな」
「この中で誰が使うんだろうな」
「シカトかよ……まぁ金平か真島だったらここから即退去」


“レミ”って確か千夜先輩の亡くなったお姉さんの恋海さん……久喜会長の好きな人だったんだ……
あれ、待って?その部屋の特徴って……私の選んだ部屋だっ‼


そんな思い出深い部屋だったなんて!どうしよう、変えたほうがいいかな?まだ部屋1つ余ってたよね……


「こんなところでどうしたの?杏奈ちゃん」
「うわっ‼ま、真島くんか……」
「僕じゃ不満だった?ごめんね」
「そ、そういうわけじゃないの!驚いただけ」
「そう。じゃ、下に降りようよ」
「うん」


結局部屋はそのままで、私は先輩たちと合流した。
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