お菓子な男の子
まだ何も知らなかった俺にとって杏奈は、大切な存在だった。
俺の寂しさを忘れさせてくれた。


ずっと父親がいなくて、母さんは仕事。家ではひとりぼっちだったから。


母さんは高校で地学を教えていた。特に星が好きで、大きな望遠鏡とたくさんの本が置かれた部屋があった。仕事があった母さんと一緒にいられる時間は短かったけど、本を読んで星を知って望遠鏡をのぞいれば、母さんにどんどん近づいている気持ちになれた。


でもそれはどうしても気持ちだけで、物理的な距離は変わらなくて。母さんの目に俺が映っているのか不安になって。


杏奈はそばにいてくれた。話しかけてくれた。笑顔を向けてくれた……杏奈といることで、自分の存在を確認できた。俺の心の穴を埋めてくれる杏奈が大切で、一緒にいるだけで幸せだった。
小さな恋心。斗真を邪魔に感じて、ケンカすることも増えたけど。



杏奈に別の想いを抱いたのは、小学生になってからだった。
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