お菓子な男の子
小学校の入学式、母さんがきてくれた。祖父母ではなくて母さんが行事に参加してくれたのはこれが初めてだった。


名字の近い俺と杏奈は隣同士。クラスも一緒。斗真は別のクラスだったことが嬉しかったのを覚えている。杏奈に一番近いのは自分だって思えたから。


だから母さんにもちゃんと杏奈のことを教えたかった。母さんと同じくらい大切な人だったから。


でも、帰りの準備を終えて杏奈と話していた俺のところにきた母さんの顔は、見たことのないくらい青ざめていた。そして無理矢理俺の手を引っ張った。


“帰るよ!早く!”


それだけだった。俺の目も見てくれなくて、話も聞いてくれなくて、疑問符が頭の中を支配していった。完全に埋め尽くされたのは、学校を出てすぐのことだった。


“亮輔、諸星杏奈に関わらないで。今後一切、絶対に”


母さんの放った一言は、手を引かれながらも振り向き見た杏奈の悲しそうな顔すらも塗りつぶした。握られた手は力を増し、そして震えていた。


この言葉の意味を知るのは、それから半年たとうとしていた頃だった。
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