お菓子な男の子
母さんの言葉の意味が分からなくて、でも握られていたあの手の感触がそれ以上聞くなと言っているようで、それからも結局俺は杏奈と仲良くしていた。


そして事件が起きた。杏奈の父親が死んだのだ。


杏奈が休んだ初日、先生はただ“家の事情”とだけ言った。悔しいけど学校以外の杏奈に詳しいのは斗真だから、仕方なくクラスに聞きにいくと斗真も休みだった。やっぱり“家の事情”だった。


学校が終わってすぐに、俺は杏奈の家に行った。幼稚園の時に数回斗真の家で遊んだから、道は覚えていた。
でも着いて俺は、来たことを後悔した。


行われていたのは葬式だった。杏奈の家はモノクロの世界と化していて、とても俺が近づけるような空間ではなかった。ある程度の距離にいても飲み込まれそうで、恐怖に押しつぶされそうだった。でも、だからこそ杏奈が心配で、姿だけでも確認したかった。


家の中から大きな棺が運ばれてきた。すがるように泣きじゃくる杏奈とその隣で静かにうなだれる斗真が見えた。そして、棺の行く末を茫然と見つめる俺の母さんがいた。


どうして母さんがそこにいるか分からなかった。関わるな、そう言ったのに。でもその言葉を思い出したときに、俺はここにいてはいけないと思った。母さんに見つかってはいけないと。でも、足が動かなかった。同時に思考も止まり、気づいたときには、泣き続ける母さんと一緒に家の玄関に座りこんでいた。
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