お菓子な男の子
“母さん……?”


母さんは真っ赤になった目で俺を見た。そして言った。


“死んじゃった……私の一番好きな人……また置いていかれちゃった……どうして?庵くん……いくら顔が似ていたって、亮輔じゃ代わりにならないよ……”


俺のほうを向いているのに、俺を見ていなかった。まるでひとりごとのようにポツポツと話し続ける母さんの言葉で、幼い俺でも十分理解できた。


今日死んだ人は俺の父さんでもあったこと。そして、母さんにとって俺は重荷でしかないこと。


俺の中の何かが変わった瞬間だった。


それからは毎日のように、プラネタリウム館に通った。夢中になって星を勉強した。
家にいたくない気持ちがあったのは覚えている。でも、ひとつだけわからない。どうして……


「どうして星に固執するんだ……」


俺と母さんをつないでいたはずのものだった。過去を知って、それは無意味なものになった。そして、俺たちを捨てた父さんと、母さんの涙を思い出させる苦しいものになった。忘れてしまえば、離してしまえばよかったのに。そうすれば、黒く渦巻いた復讐心はなくなっていたかもしれない。杏奈にも純粋な気持ちで向き合えたかもしれない。
全部、全部忘れていれば……


「亮輔くんは、みんなを好きでいたかったからだよ」
「え……」


ひとりのはずの空間に、別の存在が入り込んでいた。
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