お菓子な男の子
"さぁな"という斗真の言葉の真意もわからないまま、夏休みは過ぎてしまった。
もう明日から新学期だ。


思い返してみたら、合宿以外の記憶があいまいな夏休みだった。プラネタリウム館にも1度も行っていない。夏休みはたくさん行事があったのに。
なぜかリンゴとも会っていない。気分が乗らず、毎年行っていた花火大会にもいかなかった。誘いはあった。でも断った。真島くんからのお誘いはなかった。


「杏奈、最近ボーっとしてるけど、どうしたの?大丈夫?」


夕飯を終えてもなんだか部屋にいく気力もなかった。


「別に。なにもないよ」
「でも林檎ちゃんも遊びにこないし……」
「リンゴにだってリンゴの都合があるんだから」
「……そう」


お母さんには話す気になれない。話が大きすぎる。お父さんとお母さんのことだ。私から切り出してもいい話題ではない……と思う。
そもそもお母さんは知ってるの?真島くんたちとのことを。


「お母さん……」
「なぁに?」


無意識に呼びかけてしまった。なんでもない……そう言えばいいんだけど、さっきしてしまった素っ気ない自分の態度が少し気になってしまった。
それになんか、声をかけてしまった以上、もやもやを吐き出すいい機会かもしれない。


「あのさ……友達から相談されたんだけど、今まで一緒だった大切な人と話せない状況になっちゃったんだって。その子からは話しかけられない。前みたいには絶対戻れない。それでも今まで通りでいたい。自分が悪いのに、わがままだよねって。謝っても済むことじゃないのは分かってるのに。でも……」


自分のことだとは言えなかった。
いきなりこんなこと言ったって、お母さんに状況を把握できるわけがない。
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