お菓子な男の子
黙ったままのお母さん。当たり前だよね。
私は部屋に行こうと席をたった。


「杏奈」


後ろからお母さんの呼ぶ声。


「なに?」


背を向けたまま答えた。


「時が解決してくれる……そんなのは嘘。時間が経てば経つほど、風化して、崩れて、溝は深くなっていく。前みたいには絶対戻れない……そうね、1度壊れたものが完全な元通りになることはないけど、もとに近づけることも、前とは似て非なるものにすることもできる。それは、働きかけること、想いを声に出すことが大事なのよ」


お母さんの言ってることはわかるよ?でも、怖い……


「深く悩むほど大切な人なら、後悔しないようにしなさい」


まるで私に言っているような……


「庵さんは最期の時まで悔やんでた。これは遅すぎた罰だって。あなたには同じ轍を踏まないでほしいから……」
「え、お父さん……?」


お母さんは何を知ってるの……?
思わず振り向いて見えたお母さんの顔は、いつもの陽気さはなかった。それ以上は聞けなくて、私は自分の部屋に戻った。
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