お菓子な男の子
花梨ちゃんから聞いたことがあった。たしか、恋海さん。2年前に病気で亡くなったって……。


「お互いの学校が終わったこの時間に、よくここで待ち合わせをしてたんだ。一緒にプラネタリウムを見て帰るのが、俺の楽しみだった。だから今日は同じ時間に姉さんとって思ってさ」


だから2枚……そんな大事なものだったのに、どうして私を……
知っていたら断ったのに。また誰かの家族の大事な時間を邪魔してしまった。


「ありがとう、杏奈ちゃん」
「どうしてお礼なんか……」
「俺を救ってくれたのは杏奈ちゃんなんだ。だから今日、杏奈ちゃんと見れてよかった」
「救った?私が?」


千夜先輩の言葉の意味はわからない。


「それじゃあ。ほんとは駅まで送りたいけど、姉さんのところに寄っていくから。気を付けて帰ってね」
「はい……」


離れていく先輩の後ろ姿。あんまりしっかり見たことはなかったけど、背が高くて、スッとしていて。少し長めの髪が風に揺れている。


"俺、君のことが好きみたいだ"


天文部の部室を初めて訪れた日を思い出した。唐突に言われたあの日から、千夜先輩を勝手に避けてきた。何も知らないのに。
これじゃあ、斗哉くんや真島くんの時の二の舞だ。


「千夜煌……先輩……」


ちゃんと向き合わなきゃいけないんだ。
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