お菓子な男の子
「とりあえず帰ろうぜ」


もともと千夜先輩に興味のない斗真が口火を切った。まぁそろそろ飽きる頃だろうとは思ってたけど。


「私はもっと見て回るから、斗真、先帰ってて。リンゴ、行こう」
「おう、じゃあな」
「アンちゃん、今行く!あ、亮輔くんも一緒行こっ!」
「うん、行くよ」
「せっかくだ、俺も回ろう。チヨは……遠山がいるからいいな」


斗真が案外素直に帰宅し、千夜先輩は花梨ちゃんに連れていかれた。
問題人物がいなくなった。このメンバーならゆっくり楽しめそう!


「花梨、離せって!」
「特等席でもう一度プラネタリウム見よ?今度は2人きり♡」
「俺はもう十分だって!」


特等席は気になるけど、遠くから聞こえる千夜先輩の叫び声はなかったことにして私たちはエレベーターのボタンを押した。





「へぇ、星にも寿命があるんだね」
「そうなの!星の質量によってはね、爆発して死んじゃうのもあるんだよ?」
「詳しいんだね、林檎ちゃん」
「小さいころからいっぱい勉強したからね!次こっち来て!」


真島くんを引っ張っていっては説明をしているリンゴは、すごく楽しそう。
ここで初めてリンゴと会った日を思い出してしまう。


「リンゴ、はしゃいでるなぁ。ほんと子どもみたいですよね、久喜か……」
「諸星はここに来てから、よくその目をするな」


話の途中で、久喜会長が唐突に言った。会長は、リンゴではなく私を見ていた。


「え?目…ですか?」
「なつかしがるような、でもどこか切ない目をする。入館前も、上映中も、今も」
「やですよ、久喜会長。そんなに私見られてたんですか?気づかな……」
「何かあったのか?」


冗談っぽく切り抜けようとしたけど、会長は真剣な顔をしている。
妙に鋭い人だから困る。でも、だからこそ、久喜会長だったら……


「あ、あの……私…」
「アンちゃ~ん!久喜会長~!早くこっちこっち‼」


言ってみようか……その勇気はリンゴに消された。


「何でもないですよ?久喜会長は考えすぎです。行きましょう!」
「あ、あぁ…」


ちょっと“助かった”なんて思ってしまった。
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