メガネ殿とお嫁さま
「ほら、
理太ちゃんが好きな、
庶民の食べ物もあるよー!」

そう言って、
皿を頭に乗せて差し出す
僕より少し小柄な男の子。

美しいブロンドの髪をたなびかせ、
童顔で麗しい顔面をしているが、
彼はこう見えても
立派な高校2年生、
加賀屋 岩十郎(かがや がんじゅうろう)
イギリス貴族出身の母を持つ
その容姿は類稀なる美しさだ。
僕もここまで美しければ、
女顔であることは、気にしないで
済んでいたと思う。

実際、岩ちゃんは、すごく前向きで
明るくて輝いていた。


繊維業界を牛耳る
加賀屋グループの御曹司。
加賀屋は明治時代から有名な
呉服屋で、
曽々祖父は百貨店加賀屋の創立者だ。

彼自身も
カリスマ高校生デザイナーとして活躍。
自社ブランドだけでなく、
大手高級ブランドからの熱烈な
オファーも受けるという
世界的展開を見せている。


「岩ちゃん、全然庶民の食べ物じゃないよ。」

僕は、恐れながら口にした。

確かによく見る卵焼き…
白い皿の中央に
ちゃんとあるのはあるのだが、
周りには、
見たことのない、
デザイナブルな野菜たちが
添えてあり、
派手な色のソースが軽やかに
キャンバスを彩っていた。

嬉しそうににこにこする彼は、
全然、僕の言葉を聞かない。

いや、聞こえない。

「はい!
庶民の食べ物パート2!」

と赤いパルテノン神殿が
信じられない造作美を纏って
皿の上に鎮座していた。

よく見ると
ひとつひとつのパーツは、
タコさんウィンナーでできていた。

僕は、諦めて、ひとつ食べた。



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