メガネ殿とお嫁さま
「あ、馬の置物は、
俺がウクライナで見つけてきた戦利品だ!

みんなみたいに高くねーから
安心だろ?」

そう言ってニカっと笑ったのは、
僕と同じく三年生で、
翠さんの婚約者、
鳳凰院 柊次郎(ほうおういん しゅうじろう)。
身長は要くんよりも高い190cm
の大男で、
涼しげな目が印象的だ。
似合わないが、服を脱ぐと、
とにかく筋肉がすごい。

鳳凰院家は代々続く、
医者一家で、
この馬鹿でかい鳳凰学院、
幼稚舎から付属大学、
鳳凰病院を
経営している。

シュウくんの祖母が、
理事長、その人だ。

一見、自由奔放な教育を受けているように見え、この中では、
1番の人格者。

放浪癖で、世界中に飛んで行っては、
遺跡を発掘し、大発見を収めたり、
発展途上国に自らボランティアとして
その身を捧げたりしている。

しかし、金持ちにあるまじき
一般の価値観をお持ちだとは、
思ってはいけない。

放浪には、
とてつもない金がいるのだ。

シュウくんは、
自分でもよく言っている。
放浪はただの好奇心だ、と。

ボランティアは、ただの
ノブレス・オブリージュ。
持てるものの義務だ、
当然だと。

シュウくんから聞いたことがある
医者の子は、決して、贅沢には
育てられない、と。
いつも、お古の服で、
好きなおもちゃも買ってもらえない。

その代わり、
英才教育には湯水のように
金を使うそうだ。

高校に入ってからは、
海外留学や、現地視察と銘打っては、
放浪することに味をしめている様子だった。


貧乏人が貧乏人を
助けるわけではないのである。

「う、馬が1番いらないよ。」

そう言ったけど、
やっぱり、
シュウくんは
がはは、と笑うだけだった。

< 17 / 335 >

この作品をシェア

pagetop