メガネ殿とお嫁さま
それから、
町中を歩き、
中華街へと向かった。
「な、何でこんなに
坂が多いわけ?」
翠さんが、
ぶつくさと文句を言う。
「地形なんだから仕方ないだろ。」
シュウくんがそう言う。
「タクシーは?」
翠さんが食い下がる。
「すぐそこだ。」
軍艦島へ行くフェリー乗り場から、
中華街まで、
さほどの距離でもないし、
アップダウンも少ない。
明日はもっと、
坂道なのに、
大丈夫だろうか。
「歩くお前らを
初めて俺は見た。」
何故か、遥先生は、
感動しっぱなしだった。
もう一つタクシーに乗らなかった理由、
沢木先生が語り始める。
「ここがかつて出島があった場所だよ。江戸時代、鎖国中も
唯一ここには、西洋文化が溢れていた。
僕は、今君たちと長崎を歩くことが
できて、大変感動している。
君たちのご先祖さまは、
その頃、この日本を変えようと
様々な知識や技術を得ようとし、
実際変えたんだ。
もしかしたら、
彼らはここで、坂本龍馬たちと
語り合ったのかもしれないね。」
先生は、生き生きと語った。
「沢木先生、
僕は幕府側だけどね。」
と岩ちゃんがこそっと言ったが、
先生を気遣って、
すごく小さい声で言った。
「タイムスリップですね。」
僕は、声をかけた。
「君たちの細胞が、
君たちになる前、
ここで君たちが何を語ったか、
僕はとっても知りたいんだ。」
先生は、
目頭を熱くした。