メガネ殿とお嫁さま
「海が綺麗だから…です。」
ん?
さっきの答えか。
僕は、久々に僕に向けられた
言葉に胸が高鳴った。
「確かに綺麗だ。
だけど、綺麗すぎて切ない。」
僕は、遠くを見た。
波の向こうには、
何かが待っている気がするのに、
何も現れてはくれない。
手に入らなくて、
遠くて、
ただ涙があふれる。
喉につまる罪悪感は、
神に許しを乞うように、
その熱を高めていく。
「傷ついた身体と心を引きずって、
それでも救われたのは、
その信仰心でしょう。
私、何とも言えない気持ちになって。」
桜子さんは言った。
返答のない問いかけほど、
さみしいものはない。
君に何度、愛を囁いただろう。
心の中で、何度君を抱きしめただろう。
僕は、奥歯を強く噛んだ。