メガネ殿とお嫁さま

僕は、初めて知る彼女の生い立ちを
知れて、嬉しかった。

綾小路家は、
代々、しきたりと伝統を
重んじてきた。

先祖代々が守る土地で、
質素倹約をモットーに、
生きてきたそうだ。

自分たちで、野菜を育て、
出来るだけ、電化製品を使わず、
かまどで飯を炊き、
保存食や調味料や酒を
作って生活をしてきた。

テレビも自動食器洗いもない
手間暇がかかる生活を
僕は、貧しいなんて思わない。

それより、むしろ、
すごく豊かだ。


そっか。
だから彼女は素敵なんだ。


彼女の周りには、
豊かなものしかなかったんだな。


生活が質素だとしても、
豊かな自然、
丁寧に作られた食べもの、
作家が魂を込めた
価値のある名器の数々に
値段がつけられない絵や屏風。

ひとつひとつ、
それらが暮らしとなり、
彼女を育ててきたんだ。


綾小路家がどれほどの名家か
僕ははっきり分かった。


そして、彼女が、
そこで、めいっぱい空気を吸う光景が
ありありと目に浮かんだ。






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