メガネ殿とお嫁さま
いつも通り、
イヤフォンをつけて、
山を駆けた。
山は、初夏の訪れを
もう知っているようだった。
きっと、彼女が住む山の空気も
そろそろ変わってきただろう。
ついこの間まで、
武家の嫁さんがいたのが
嘘みたいだな。
夢みたいな、
もう信じられないような
日々だった。
たった二週間なのに。
なのに、
不思議なんだよな。
眼鏡を外せ、とか
しっかりしろ、とか
好きになれ、とか
覚悟しろ、とか
彼女は一言も言わなかった。
だけど、
彼女の言葉と行動は、
何回だって、
僕の背中を押したんだ。