メガネ殿とお嫁さま


目が覚めたら、
夢の中で見た和室だった。

1時間ほど寝てたらしい。

母が部屋にいて、
起きるなり、
栄養ドリンクと
コンビニの握り飯を渡してきた。

「お母様でもこんなもの食べるんですね。」

僕は言った。


「途中でコンビニに寄っといたのよ。
あなたが、何にも食べてないかもと
思ったから。

私だって、それくらい買えるわ。」

母は、照れたように言った。



僕は、とりあえず、
腹を満たし、
もう一度、袴を履いて
身支度を整えた。


まるで、出陣する息子を
送り出すように、
お母様が乱れを直した。


「家を捨てると言ったこと、
怒っていませんか。」

僕は聞いた。


「男の子は、みんな
独立するものよ。

今更家の名なんていらないわ。」

お母様はそう言って笑った。



「生きててくれたらそれでいい。」


そう続けて、
少し泣いた。


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