メガネ殿とお嫁さま
もう、嫌だ。
限界だ。
離れは人とであふれ、
別室で着替えた僕は、
ふらふらと座敷へ向かう。
この古めかしい家が
所構わず息を吹き返したように
生き生きしている。
何が儀式だ。
婚姻だ。
たかが1ヶ月の婚姻のために、
あの美しい嫁は必要か。
何を嬉しそうに、
何を緊張した面持ちで、
そこに座っている。
自分も何故か、
どくどくと血液がすごい勢いで
流れていく感覚を
見逃せずにいる。
座敷は、
緋毛氈に金屏風、
お膳がセットされ、
今か今かと
彼女の隣に空いた席が
僕を待っている。
今にも倒れそうになりながら、
席へと座った。
「幾久しく、よろしゅうお願いいたします。」
彼女が頭を下げて言った。
僕は、答えなかった。
何故なら、
僕は、
その場で、後ろに
泡を吹いて、ぶっ倒れたからである。