不順な恋の始め方
「さ、坂口先輩……?」
「……ちっこい手えやなあ」
「へっ?」
柚希の指と指の間に俺の指を絡ませて、ぼうっと眺めながら呟いた俺のひとことに柚希の目はくるりと丸くなる。
さっきから、俺の行動にいちいち反応してくれる柚希の瞳が可愛いてしゃあなくて。なんか無性に愛しくて。
「譲、やろ?」
「で、も……ここ、会社じゃないですか……無理です」
「呼んで。お願い」
また俺は、柚希の眉が八の字になってしまうような言葉を吐いてしまった。
柚希は困ったような表情をしたけれど、一度ゴクリと息を飲むと俺を見上げて真っ赤な顔で、小さく、小さく「譲」と発した。
言われるまでもなく俺は、その声と、表情と、仕草に矢を刺されてしまったのだけれど。これが、どうも鋭く大きい矢で。
「う、わー……あかん」
「えっ、な…何かダメでした?」
「あー、いや、ちゃうちゃう。森下さんは何も悪ないねん。こっちの話」
抜けそうにない鋭く大きな矢に、しばらく苦しんだ俺は、早くも柚希にゾッコンらしいです。