不順な恋の始め方
ひとりで社内を歩き続けている間、脳裏に浮かぶのはさっき見せられた1枚の写真。
薄暗い会社の駐車場で、少し顔を俯けている佐藤さんと譲の後ろ姿が映っていて、なんだか話し込んでいるような写真だった。
今までは、然程気にしていなかったあの佐藤さんの噂達も今はちょっと……いや、かなり気になる。
本当に佐藤さんが社内の殆どの男の人と関係を持っているんだとしたら……?
そうだとしたら、もしかして譲も……?
「……いや、ないない。うん」
誰もいない静かな廊下で、ぶるぶると顔を横に振って嫌な想像をかき消した。
……だって、譲は昨日ちゃんと午後9時前には帰ってきてたもん。大丈夫。
これが朝帰りだったなら〝黒〟かもしれないけれど、譲は〝白〟だ。ちゃんと潔白だ。
なんて、これはただ自分に言い聞かせているだけで。真実なんて分かるはずもない。
だって、しようと思えばたったの1時間さえあれば済んでしまう。
大橋に目撃された7時頃から、9時まで。行為を行うのには十分すぎる時間があったのだから。