不順な恋の始め方



* * *



「おはようございます」

「あー、おはよう」

「おはようございまーす」



翌日、私はいつも通りオフィスの扉を開けて挨拶をする。

そして、そんな私の挨拶へと次々返事が返ってきた。


そんないつも通りの雰囲気と景色の中に、一際目立ち、いつもと違う表情をする人がひとり。


「…おはよう。森下さん」

「お…はようございます。坂口先輩」


そう。その人とは、譲の事で。

きっと譲は、私が昨日連絡も無しに家へ帰らなかった事を気にしているのだろう。


眉尻を下げて、少し複雑そうな顔をする譲に私はチクリと胸が痛んだけれど、その表情の原因は私か、それとも……佐藤さんか。

やっぱり私には、分からない。



でも



「あの……坂口先輩。後で少しだけ……お時間、良いですか……?」




……ちゃんと、話さないと。


ちゃんと、本人の口から聞かないとダメだよね。それが例え、残酷な言葉だったとしても。

< 116 / 195 >

この作品をシェア

pagetop