不順な恋の始め方

ガチャン、と音を立てて閉まった非常階段の扉。

その音を最後に、静かな空気だけが流れる私と譲の間にある空間。


その沈黙のような空気を破ったのは、私ではなく彼。譲だった。



「……ごめんな」



眉尻を下げ、切なげで哀しい表情。

そんな表情の彼が発したのは〝ごめんな〟という今の言葉のみ。



この言葉は、何?

この言葉の、本当の意味は?



「それは……何に対しての〝ごめん〟ですか……?」



佐藤さんと関係をもったから?

佐藤さんを好きになったから?


それとも

責任を取れず、別れを告げるから?




どれにしたって、今の私にはとても残酷すぎる理由で。

受け入れないといけないけれど、どうしても受け入れたくない理由。



だって



もう、私は………………



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