不順な恋の始め方

柚希は隣の菅原さんの飲んでいたカクテルに手を出し、それを口元へ運ぼうとしている。

その様子を見た俺はガタンと音を立てて立ち上がり、柚希の元へと寄ると彼女の手からカクテルを取り上げた。


そんな、俺の突然の行動に柚希をはじめ周りの数人がザワザワとし始める。


……ああ、やってもうた。


完全に自分の行動を後悔したけど、そんなん今更で。

俺は「ちょっとこっち」とだけ言って柚希の手を引くと居酒屋から出た。



「あかんって言うたやろ? アルコール」

「う……ごめんなさい」

「先生にも言われてるやん。ただえさえお酒弱いんやから……」


気いつけてえや、と言い終わる前に柚希が泣き出しそうな顔をする。

それに気づいてしまった俺はハッとして「ごめん、ついキツく言うてもうた」と急いで謝った。



「……う、ううん。私こそごめんなさい。つい、手出しちゃって……」


〝つい〟という柚希の言葉が少し引っかかる。

前に、俺と佐藤さんとの事を勘違いした柚希が連絡も無しに家に帰って来なかった日。

その日に友達の家でお酒を飲んでしまいそうになったと、後日白状した柚希に俺はお酒はダメだと強く言って聞かせたのだけれど、その時も〝つい〟と言っていたような気がする

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