不順な恋の始め方
今にも何か温かいものが溢れ出しそうな瞼をぎゅっと閉じ、再び開く。
強く、固く、心に決めた決意と覚悟。
それが揺らいでしまわないように、拳、それから、唇に強く力を入れた。
私が帰るべき家、だった場所まで、この角を曲がって少し。
今は仕事に行ってしまって譲はいないだろうけれど、譲が帰ってきたらちゃんと伝えよう。
そう考えていた、その時──────
「柚希…!!!」
「へっ……!? ゆ、譲……?」
角を曲がると見えた、マンションのオートロックになっている大きなガラス扉。
そして
その前辺りでスーツのまま立っていた、愛しい人。
その愛しい人は、私の姿を見つけるなり私へと向かって走ってきて。そして、キツく、強く。でも、優しく抱きしめてくれた。
「ゆ、譲……」
「アホか!何やってんねん!」
私の両肩を持ち、少し距離を取るといきなり今までに聞いたことのないような大きな声で怒る譲。
そんな譲の声に一度、びくりと体が反応したけれど、不思議と怖くはなくて。何故か、寧ろ嬉しいような気もした。