不順な恋の始め方
「え……?」
「もう、譲とは話さないし、この家も出ます。だから……結婚も、こうしてお付き合いするのも……もう、やめたい…です」
「……なんで?」
譲の声が少しだけ、震えている。
でも、譲の瞳は私のことを真っ直ぐに捕らえていた。
「なんで、って……」
「理由は? ちゃんと納得できるように教えて」
「そ、れは……」
……理由なんて、ない。
私が譲と別れたい理由なんて、あるわけがない。
でも
私が譲と別れなければならない理由を告げるとすれば、譲はきっとそれを否定して私に優しくするだろう。
自分の気持ちを……ちづさんへの気持ちを否定して、私の隣に居続けるだろう。
それでは、また同じことの繰り返し。
「……嫌い、なんです……っ、」
「え……?」
「嫌い、だからっ……別れたい、の」
………私は、ズルい。
泣いてしまった。譲の前で、こんなにも涙を流して泣いている。
〝嫌いだから別れたい〟なんて、嘘。
この涙が、そう言っている。
そう、譲に訴えかけている。
こんなの……私は別れたくないって、他に理由があるんだって、言っているようなものじゃない。