不順な恋の始め方
「柚希」
「へ…」
「誰を、嫌いなん? 言うてみ」
譲の親指が、私の頬をすくう。
ドキリ、と胸が跳ねたと同時に私の瞳から溢れ出ていたはずの涙が止まった。
譲の瞳は、真っ直ぐ私を見ていて。
その瞳に捕らえられた私は、逃げられない。視線を外すことなんて許されない。
「誰を……って……」
〝譲〟と答えろと言うのだろうか。
こんなの、言わなくたってわかるはずなのに。わざと聞いてくる譲は意地悪だ。
「言うてみ。」
「っ……譲、を」
私は負けじと譲の瞳を真っ直ぐに見つめ返し、譲だと答える。
でも、一瞬、視線を泳がせてしまった。
そして、それを譲は一切見逃さなかった。
「……目、泳いだ。嘘つき。そんな訳ないやん。俺、この間〝好き〟やって言うてもろたばっかやもん」
せやろ? と笑って私を抱き寄せる譲。
私の瞳からは再び涙が溢れ出し、もう、止まらなくなってしまったのではと思う程に流れ出した。